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火の鳥

「火の鳥」は、手塚治虫の漫画作品。

目次

黎明編(漫画少年版)→火の鳥目次に戻る

初出:『漫画少年』(1954年7月号 - 1955年5月号)未完
主人公のナギは父親が病気にかかってしまったため悩んでいた。もし上空にある「血の星」という星が沈むまでに父の病気を治すことができなかったら、村のしきたりにより父親は村人たちに食べられてしまうからである。悩みぬいたナギは長老に相談すると父親の病気を治すには「火の鳥」という鳥の生き血が必要と教えられる。それを聞いたナギは火の鳥に会いに行き、運良く生き血を貰う。しかし、ナギが村に帰る頃には「血の星」は沈んでおり、父親は既に食べられてしまっていた。行き場を失った火の鳥の生き血は仕方がないのでナギと妹のナミが飲むことになった。やがて村はさらに豊かな土地へと引越しするために船を出すが嵐のためナギとナミは難破し知らない島国に流れ着く。その知らない土地は原住民が住んでおり、火の鳥の生き血を飲んでいて死なない体の二人は彼らに神様と崇められる。主人公のイザ・ナギと妹のイザ・ナミは原住民から天照大御神の名前を貰う。その後、二人は原住民の長である卑弥呼に出会うが卑弥呼が岩戸の中に入るところで雑誌休刊のため未完に終わった。

エジプト編→火の鳥目次に戻る

初出:『少女クラブ』(1956年5月号 - 10月号)
紀元前1000年頃。主人公のエジプトの王子クラブは父親の命令で飲めば3000年の命が貰えるという火の鳥の血を求めて旅に立つ。しかし、その間に王家を乗っ取ろうと考えていた王女(クラブの継母)は王と王子を殺そうと計画する。旅に出たクラブはもう一人の主人公である奴隷のダイアと出会う。ダイアの国はクラブのいるエジプト軍に滅ぼされ奴隷として育てられていた。やがてクラブとダイアは恋に落ち火の鳥を探す旅を続ける。そして二人は火の鳥の卵を洪水から救い、代わりに火の鳥の生き血を貰う。しかしクラブは王女の部下に殺され、ショックを受けたダイアも後を追って自殺する。

ギリシャ編→火の鳥目次に戻る

初出:『少女クラブ』(1956年11月号 - 1957年7月号)
エジプト編の続き。
クラブとダイアの死体は300年経ちナイル川に流され、ギリシャの海を彷徨っていた。そしてダイアの死体はトロヤ軍の船に引き上げられ、クラブの死体はスパルタの海岸に打ち上げられた。火の鳥の血を飲んでいた二人はそこでそれぞれ目覚める。クラブとダイアはスパルタの宮殿で偶然出会うが、二人は記憶をなくしていた。しかし、二人の心は何故か惹かれ合い「きっと前世では兄妹だったのだろう」と決め兄妹として愛するようになった。やがて二人はトロヤとスパルタという敵同士の国に運命を引き裂かれ戦争に巻き込まれる。そして悲劇が起きトロイの木馬によってダイアは潰され死亡する。クラブは悲しみのあまりダイアの死体を抱え海に飛び込み死亡する。

ローマ編→火の鳥目次に戻る

初出:『少女クラブ』(1957年8月号 - 12月号)
ギリシャ編の続き。
海に飛び込んだ二人はユリシーズによって死体を回収され長い間ギリシャの宝物庫に保管されていた。しかし、300年経ちローマのシーザーがギリシャを制圧すると、アンドロクレスによって二人の死体は引き取られた。二人の死体はローマへと渡り、火の鳥の生き血のおかげで生き返りアンドロクレスに兄妹として育てられた。二人の暮らしは平和そのものであったが、そんな暮らしも長く続かず、ダイアはローマの暴君ネボケタスによって無理矢理、妻にされそうになる。二人は抵抗するが、代わりに死刑を宣告される。

黎明編→火の鳥目次に戻る

初出:『COM』(1967年1月号 - 11月号)
3世紀の倭(日本)。主人公のナギの姉ヒナクは破傷風にかかり、生死の境をさまよう。ヒナクの夫であるウラジは妻を助けるため火の鳥の生き血を求めて火の山に入るが、火の鳥の炎に包まれ死んでしまう。困っていたところ、村の海岸に漂着した異国の医師グズリが現れ最新の医学知識でヒナクを救う。やがてグズリとヒナクは恋に落ちる。ところが婚礼の夜、グズリの手引によって、多数の軍船から猿田彦率いる防人の軍団が上陸。グズリはヤマタイ国のスパイであった。村人は虐殺され、猿田彦は抵抗するナギを奴隷として北の国に連れ帰る。ヤマタイ国がナギのいたクマソを侵略した裏には、老いた卑弥呼が火の鳥の血を欲していたという事情があった。
本作は未完に終わった「漫画少年」版の黎明編を基に大幅に内容を変え連載したもの。大和朝廷の成立については、定説ではなく本作品執筆時に話題になった江上波夫の騎馬民族征服王朝説を採用している。その後何度か描き直されており、後年の版では主人公たちを襲う様々なスタイルの狼の中に、「ファミコン型」や「赤塚不二夫型」等も登場する。また日蝕の場面では太陽の欠け方が間違っており、手塚本人によって単行本では正しい日蝕の欠け方へと修正されている。TVアニメ版では子供の頃の猿田彦のシーンが追加され、どうして卑弥呼に忠誠を誓っていたのかが分かるようになっている。

未来編→火の鳥目次に戻る

初出:『COM』(1967年12月号 - 1968年9月号)
西暦3404年。時間軸で考えた場合の火の鳥の結末にあたる作品。人類は進化するどころか原因不明の衰退にあり、科学も芸術も進歩が停止、人々は昔の生活や服装にばかり憧れを抱くようになり、すでに30世紀には文明は21世紀頃のレベルまで逆戻りしていた。地球は滅亡の淵にあり、地上に人間はおろか生物は殆ど住めなくなっていた。人類は世界の5箇所に作った地下都市“永遠の都”ことメガロポリスに移り住み、超巨大コンピュータに自らの支配を委ねていたが、そのコンピューターも完璧な存在ではなく、コンピューター同士で争いが起き、メガロポリス「ヤマト」と「レングード」の対立から核戦争が勃発、地球上のあらゆる生物が死に絶える。生き残ったのはシェルターに居た主人公の山之辺マサト達の数人であった。そこで山之辺マサトは火の鳥に永遠の命を貰う。仲間達が次々と死んでいく中で山之辺マサトは死ねない体のまま苦しみ、悶えながら生き続ける。途方も無い時間をたった一人で過ごす中で、マサトは地球の生命の再生を求め続け、やがて一つの答えにたどり着く。
本作は結末が黎明編へ繋がるような展開となっており、読む順番を一番最初にしても、一番最後にしても問題が無いような作りになっている。なお、NHKのアニメでは尺の都合及び倫理的な都合によりナメクジ文明のエピソードが全面的にカットされている。

ヤマト編→火の鳥目次に戻る

初出:『COM』(1968年9月号 - 1969年2月号)
4世紀頃の倭(日本)。古墳時代。主人公のヤマト国の王子、ヤマトオグナは父である大王からクマソ国の酋長川上タケルを殺すことを命じられる。その理由は川上タケルが真実を書いた歴史書を作ろうとしているからであった。大王は、自分たちは神の末裔であるとする嘘の歴史書を作ろうとしていたため、川上タケルがやろうとしていたことは不都合であった。オグナは川上タケルの妹であるカジカと出会い恋に落ちるが、迷いながらも父の言いつけ通りに川上タケルを殺す。タケルは死に際に「わしの名前をやろう。これからはヤマトタケルと名乗るがいい」と名前を譲る。愛したカジカに、仇として命を狙われる事となったタケル。二人の愛はやがて悲劇へと向かって行く。
本作は『古事記』・『日本書紀』の日本武尊伝説と、日本書紀の垂仁紀にある埋められた殉死者のうめき声が数日にわたって聞こえたという殉死の風習と埴輪にまつわるエピソードを下敷きにしている。殉死者が死ななかったのは火の鳥の血の効果であるとし、期間も1年にわたっての事とした。石舞台古墳造営にまつわるエピソードがあるが、史実ではもっと後代の古墳であり、殉死者が埋められているという事も無い。オグナは神話のヤマトタケルがモデルで川上タケルは川上梟帥がモデル。本作に登場するクマソの国の長老は黎明編の最後で崖を登り切った青年であり、彼の子孫が繁栄しクマソ国へと発展している。
雑誌掲載版と単行本版では、手塚により細かな修正が行われている。ヤマト編は時事ネタが多かったため単行本ではセリフの手直しが多い。作中で川上タケルは、"長島"なる部下に「王」と呼ばれている。これは初出時には川上タケル=川上哲治として、クマソを巨人に見立て、その部下の長島=長嶋茂雄という洒落であったが、川上が監督を引退したので、川上タケルを王貞治に見立てる内容に改稿したためである。雑誌版では川上タケルがオグナを出迎えた場面で、手塚の学生時代の体験談である「日本とアメリカが都合のいい様に相手国を中傷していた」という2ページに渡った内容があったが単行本時に省かれている。

宇宙編→火の鳥目次に戻る

初出:『COM』(1969年3月号 - 7月号)
西暦2577年。主人公達4人はベテルギウス第3惑星から地球へ向かうために宇宙船で人工冬眠を行いながら針路を移動していた。しかし宇宙船は操縦者である牧村五郎の自殺によって事故に遭う。事故により船は修理ができず、乗員は今すぐに宇宙船から離れないと危険な状態であった。乗員は人工冬眠から目覚め宇宙救命艇で脱出する。しかし、救命艇は一人乗りの小さな緊急用の物で4人はバラバラに宇宙に投げ出されるような形になった。救命艇にはそれぞれ無線通信機が付いており、彼らは宇宙に漂いながら会話を始める。その内容は過去に起きた、自殺した牧村五郎に関するものであった。やがて彼らの乗る4つの救命艇に謎の救命艇が近づいていく。はたしてその救命艇には誰が乗っているのか。
本作では、どうして猿田が過去から未来へと延々と苦しみ続けているのか、その理由が語られている。また本作がOVA化された時には、牧村とナナと奇崎が出会うシーンが追加され、隊長の死亡理由の変更、牧村がラダを殺す動機の変更、牧村が不老不死になる過程の変更など、全体的にストーリーは変えないまでも細かな演出がより現実的になっている。

鳳凰編→火の鳥目次に戻る

初出:『COM』(1969年8月号 - 1970年9月号)
奈良時代。主人公の一人、我王は誕生直後に片目と片腕を失っており、心に影を持ちながら殺戮と強奪を繰り返しながら生活していた。もう一人の主人公である仏師の茜丸は我王に襲われ、彼に片腕を切られ、仏師としての生命の危機に追い込まれる。その後、我王は速魚という女性と出会い、愛を知るが、彼女を信じることができず殺してしまう。しかし彼女の正体を知った時、激しい後悔に襲われることとなった。一方、茜丸もまた、我王に腕を切られたことから少しずつ、その心と運命が変化していく。
本作は、苦しみに耐え続けながらも生き続け、最後にはそれを肯定する我王と、権力の庇護を得て慢心に陥ってしまった茜丸の対比。人間の名誉と権力を望む醜さ、そして人間とは何か、宗教とは何かといった深い題材を取り上げている。ただし史実では橘諸兄によって重用されている吉備真備が、この作品では政敵として対立するなど、意図的に史実と異なる点も多々見られる。
劇場アニメ化された時は60分という尺の短さから大幅に内容を短縮され、我王は速魚を殺した後は最後の対決までほとんど登場しない。また原作では比重の大きかった良弁僧正が一切登場せず、二人の心理変化もあまり描かれず、主人公の一人がもう一人の主人公のお墓を彫る(弔う)というラストシーンもカットされている。雑誌掲載版では、我王が泥を壁に投げヒョウタンツギの絵を作るというお遊びのシーンがあったがストーリーに無関係なため単行本では手塚により省略されている。

復活編→火の鳥目次に戻る

初出:『COM』(1970年10月号 - 1971年9月号)
西暦2482年。主人公の少年レオナはエアカーから墜落した。レオナは科学の治療で生き返るが、人工細胞で脳を補うという方法のため認識障害を起こす。具体的には、有機物(生命体)が無機物(人工物)に見え、無機物(人工物)が有機物(生命体)に見えるようになった。そのため、彼には人間が奇妙な無機物の塊にしか見えなくなってしまった。そんな中である日、レオナは街で美しい少女を見かける。彼にとって唯一生き生きとした人間に見えるその少女に心ひかれ、追いかけるが、彼女の正体はロボットであった。やがて認識障害は改善されてゆくが、ロボットのチヒロを人間の女性と認識し愛する事に変わりは無く、ついにはチヒロと駆け落ちしてしまう。そしてレオナはある決断をする。
主人公の事故死の背景には、アメリカにおいて主人公がフェニックス(火の鳥)の血を入手したという過去がからんでいた。本作はラストシーンが「未来編」へと繋がるようになっている。
なお、レオナは頭の手術を受けたため一時的に坊主頭となっているが、NHKのテレビアニメ版では頭に包帯を巻いただけの描写となっており坊主頭では無く、その点がぼかされていた。雑誌掲載版と単行本版では2484年から3009年、さらに3030年へと行戻りする物語の順番が手塚により一部修正されている。

羽衣編→火の鳥目次に戻る

初出:『COM』(1971年10月号)
10世紀、三保の松原。主人公の漁師のズクは家の前にある松の木に、薄い衣が引っかかっているのを見つける。すぐさまそれを手に入れ売ろうとするが、衣の持ち主である女性「おとき」が現れ、ズクは彼女を天女だと思い込む。ズクは衣を返すことを引き換えに3年間だけ妻として一緒に暮らすことを約束させる。
本作は天の羽衣の伝説が元になっており、舞台で演じられる芝居を客席から見たような視点で描かれている。また羽衣伝説を基に描いているが、「おとき」の正体は天女ではなく未来人であり、羽衣の正体は未来の技術で作られた謎の物体である。最後はこの物体を数千年後の未来へと託すために地面に埋めるところで終わっている。短い作品であるが、「放射能の影響で奇形で生まれた赤ちゃんを嘆いて殺そうとする」という表現についての問題や作者の意向があり、1980年まで描き直されるまで単行本化されなかった。(作中では放射能とは断言されてないが"毒の光"を浴びてしまったために奇形児が生まれたとする表現がある。)本来は「望郷編(COM版)」と関連する話であるが、1980年に単行本化される際、全ての文章を手塚が書き直し独立した話になっている[7]。そのため、本来ならば最後に埋めた物体の正体がCOM版「望郷編」で語られたはずがそのままになっている。

望郷編(COM版)→火の鳥目次に戻る

初出:『COM』(1971年12月号)・『COMコミックス』(1972年1月号)
城之内博士は人類の歴史をやり直すため、人間も植物も動物も全てクローンでまかなわれた「第二の地球」を創りだした。城之内博士の娘「時子」は戦争から逃れるために4次元航空装置で「羽衣編(COM)」の時代へ逃げていた。時子の正体は実は羽衣編の「おとき」であり、本作は彼女が未来へと戻ってくるところから始まる。時子には放射能(作中では毒の光と表現)のせいで奇形で誕生した赤ちゃんがいた。しかし、時子に恋心を抱いていたジョシュアという男は城之内博士を殺し、4次元航空装置を奪い、奇形の赤ちゃんを池に投げ捨て、時子を連れ本当の地球へと旅立つ。赤ちゃんは生きており、クローン動物から「コム」と呼ばれるようになる。
本作はCOMの休刊によって[8]、未完のまま中断される。放射能障害を描いたCOM版「羽衣編」を前提としているため、「羽衣編」改稿に伴い、構想を新たに関連のない物語として『マンガ少年』版「望郷編」が描かれ[9]、この版は未完のままで長く単行本に収録されることがなかった。前後を大幅にカットした短縮版が『マンガ少年』に掲載されたこともあるが、そちらの短縮版はまだ一度も単行本化・書籍収録されたことはない。

乱世編(COM版)→火の鳥目次に戻る

初出:『COM』(1973年8月号)
平安時代末期。主人公である猟師の「まきじ」は実の妹である「おぶう」と体も心も愛しあう関係であった。ある日、まきじは山で死にかけていた一匹の猿を救った。それはまきじが普段「赤坊主」と呼んでいたボス猿であった。どうやら赤坊主はハンニャとよばれる猿と争って負けボスの座を奪われたようである。まきじは瀕死の赤坊主を手当する。まきじは体の治った赤坊主と一緒に京都へ仕事に行くと、赤坊主をめぐり路上で役人と衝突。あやういところで名僧である明雲に助けられる。明雲の忠告もあり、まきじは赤坊主を山へ返そうとする。
本作は後の「乱世編」の元となる話であるが、『COM』が再び休刊したことにともない連載中断している。主人公の「まきじ」は後の「マンガ少年」版の弁太の原型であるがほっそりしている。また、まきじとおぶうは兄妹でない設定に変わった。猿と子犬のエピソードは「マンガ少年」版に流用されているが、二匹の名前が変えられており、天狗に育てられた話になっている。

望郷編→火の鳥目次に戻る

初出:『マンガ少年』(1976年9月号 - 1978年3月号)
時代は宇宙時代。自然が失われ続ける地球に絶望した、主人公のロミと恋人のジョージは、強盗で得た金で宇宙不動産会社から小さな惑星、エデン17を買い、移住する。しかしそこは地震が頻発し、荒廃した惑星であった。悪徳業者に置き去りにされ、ジョージは事故で死に、ロミは残された息子と結ばれることで、生命を繋ぐ決断をする。しかし近親婚の影響で女児を得ることができず、ロミは唯一の女性として、息子と結婚して子供を産んでは冷凍睡眠を繰り返す事となった。やがて小さいながらも、ロミと息子たちのコミュニティが築かれていくが、兄弟同士の諍いから恐るべき計画がもちあがり、それを聞かされたロミは絶望して睡眠装置に閉じこもってしまう。彼女を憐れんだ火の鳥は、ロミの夢に呼びかけ、異星人との混血をすすめた。火の鳥の働きかけによりムーピーがエデン17へ訪れ、ムーピーとの混血の新しい種族が反映していく。ロミが数百年にわたる眠りから目覚めた時、エデンには心優しく素朴な人々の住む、平和な文明が育っていた。ようやく心の平安を得たロミは、エデンの女王として人々に慕われ、静かに老いていくが、次第に地球への望郷の想いを募らせ、コムという少年と共に地球を目指す旅に出る。
『COM』版の「望郷編」(未完)との関連はほとんどなく、唯一、被爆した少年コムだけが、ムーピーと地球人との混血児という設定で再登場している。
手塚本人により何度も描き直されており、雑誌掲載版朝日ソノラマ版・講談社版、角川書店版の各単行本では大きく内容が異なる。雑誌版では地球到達までのロミの顔は老婆のそれであったが、朝日ソノラマ版の際に若く描き直されている。単行本ではフォックスと呼ばれるブラック・ジャックに似た男がロミを自然が残った場所へと連れて行くシーンが追加された。また雑誌版ではロミは牧村に撃ち殺されるが、単行本では若返りの副作用のため死んだことになっている。ラストシーンも牧村がロミのために星の王子さまを読むという場面が追加された。ロミとジョージの声が最後に聞こえるシーンも単行本で加筆されたもの。また角川版ではロミとジョージの出会いのシーンを冒頭に移動し、展開を早くするため宇宙船に他の宇宙人が搭乗する場面を省き、地球に向かう途中に立ち寄る星に違うものがあったりするなど内容が異なる。また、本作は火の鳥全シリーズ中で最も手塚による加筆・修正が多い編であり、雑誌掲載版、角川書店版、朝日ソノラマ版・講談社では上記以外でも100ページ以上の変更がある。特にムーピーと人間との混血が生まれる場面はそれぞれ設定が異なる。

乱世編→火の鳥目次に戻る

初出:『マンガ少年』(1978年4月号 - 1980年7月号)
西暦1172年。平安時代末期。主人公の木こりの弁太とその恋人おぶうは田舎で愛を育んでいた。しかし、弁太が薪と猪の皮を売りに京都へ行くと役人の暴行を受ける。いざこざの後、弁太は高価な櫛を拾い、おぶうへとプレゼントするが実はこれは藤原成親の櫛であった。その櫛が原因となり弁太の家は焼かれ、家族は死に、おぶうの父も殺害された。おぶうは美しかったため殺されず都へと連行される。弁太はおぶうを追って都へと出向く。
本作は源平の抗争に巻き込まれた二人のすれ違いの運命を追っていき、源平の抗争や源頼朝・義経兄弟の相克には、火の鳥の争奪が関わっているという筋立て。弁慶伝説を下敷きとする。「鳳凰編」の我王も義経の師匠鞍馬天狗として登場している。英雄として名高い義経が、本作では目的の達成のためには何ものをも犠牲にして憚らぬ残虐非道な人物として描かれる。この乱世編では手塚の実の先祖でもある手塚太郎光盛が手塚の自画像と似せて登場する。
手塚により何度も描き直されており、雑誌掲載版、角川書店版、朝日ソノラマ版・講談社版では大きく内容が異なる。特筆すべき大きな変更は犬と猿のエピソードは本編の途中(天狗が死ぬ場面)に存在したが、朝日・講談社版ではラストに移動し、犬と猿が義経と清盛の転生後という設定になっている。その中では犬と猿が人間だった頃の思い出(義経と清盛だった頃)を思い出すという内容が追加された。また角川版では犬と猿のエピソードは冒頭に移動され、物語の序章として扱われている。さらに弁太が義経を丸太で顔を潰し、殺す場面は角川版では敵の弓矢で死ぬ場面に変えられている。この他、細かな変更も多い。

生命編→火の鳥目次に戻る

初出:『マンガ少年』(1980年8月号 - 12月号)
2155年。主人公のテレビプロデューサー青居はクローン人間を使った殺人番組を考案する。クローンを使えば法律の抜け穴をついて合法的な殺人が行え、それを番組にすれば視聴率が取れると考えたためである。青木はクローン技術の工場があるペルーに向かうが、なんと自分自身が大量生産されてしまう。そして日本に連れて帰られた大量の青居は、皮肉なことに自分自身が企画した殺人番組の材料にされることになった。どれが本物の青居かも分からなくなり、「本物」の青居もあっさり殺される。その中で一人の青居が番組の追手から逃げ出し、逃亡中に出会った少女と生活を始める。
本作は雑誌掲載版と単行本では、手塚による修正が入っている。まずサイボーグのおばあちゃんは雑誌掲載版では本当に生きたおばあちゃんであったが、朝日・講談社版では見るからにロボットの姿へと変更された。また鳥の顔をした女性は雑誌掲載版では、本当に火の鳥の顔をしていたが明らかに不自然だったためか、単行本版では人間的な鳥の顔へと修正されている。エンディングも全く異なり、雑誌掲載版では青居はテレビ番組内で殺されるのに対して単行本版では青居はクローン人間培養工場を爆破するエピソードが追加されている。

異形編→火の鳥目次に戻る

初出:『マンガ少年』(1981年1月号 - 4月号)
戦国の世(室町時代)。主人公の左近介は本来は女であったが、幼少の頃より父に男として育てられた。左近介の父は応仁の乱の功績で名をあげた残虐非道の男であり、左近介は父を憎んでいた。ある日、左近介の父の鼻に「鼻癌」と思わしき症状が現れ苦しんでいたところ、それを治せるという尼「八百比丘尼」が現れた。左近介は父を病で死亡させるために尼を殺すことを決意する。左近介は尼のいる寺へ出向き尼を刀で殺すが、尼の顔は左近介によく似ていた。そこから恐ろしい因果応報が左近介に巡ってくる。
本作は八百比丘尼伝説を下敷きにしている。雑誌掲載版と単行本とでは結末に大きく加筆がされ、主要登場人物が最後に切られるという大事な場面は単行本で追加されたもの。その他にコマの入れ替えやページの組み換えなど細かな修正が多い。雑誌掲載版では、なぜ左近介が妖怪を治療し続けなければならないかを火の鳥が説明する場面があったが、「太陽編」へと繋げるために削除されている。

太陽編→火の鳥目次に戻る

初出:『野性時代』(1986年1月号 - 1988年2月号)
7世紀と21世紀(2009年)の2つの時代を交互に描いた物語。西暦663年、主人公の一人ハリマは百済の王族の血を引く存在であったが、白村江の戦いで敗れ、顔の皮を剥がされ、その上に狼の顔を被せられた。狼の皮はハリマの顔に張り付き、本来の皮膚と同化して取れなくなってしまった。ハリマが倒れているところを占い師のオババが助け、逃げるために将軍・阿部比羅夫と共に倭(日本)に渡る。ハリマは倭では犬上宿禰(いぬがみのすくね)と名乗り、狗(ク)族の少女マリモとの出会いを経て、やがて壬申の乱に巻き込まれてゆく。壬申の乱は世俗での権力闘争であると同時に、外来宗教である仏教と日本土着の神々との霊的な戦いでもあった。
一方、21世紀の日本は「火の鳥」を崇拝する宗教団体「光」一族に支配されていた。もう一人の主人公である坂東スグルは幼い頃から「光」によって地下街に荒廃した環境で生活させられ、スグルはその中の反「光」団体「シャドー」に属したテロリストとして冷酷な人殺しを繰り返していたが、ある作戦に失敗したことによって「光」のメンバーに捉えられ洗脳するための施設に入れられ、狼の頭に似た洗脳ヘルメットを被せられる生活を送ることになる、そしてかつて任務で同い年という理由から殺さなかった少女兵士・ヨドミと施設で知り合い、惹かれ合っていく。
本作はハリマがスグルになった夢を見て、スグルはハリマになった夢を見るというように交互に物語が入れ替わる。過去と未来の宗教は双方とも火の鳥自身がご神体となっている。
単行本化の際は手塚により未来側のストーリーが大幅に変更され、火の鳥が登場したり、猿田が罰を受ける描写などかなりのカットがなされている。雑誌掲載版では鉄腕アトムのお茶の水博士が登場する。また、NHKのテレビアニメ版では尺の都合で大幅カットされ未来側の物語は描かれなかった。

休憩 INTERMISSION→火の鳥目次に戻る

初出:『COM』(1971年11月号)
他の編と異なり手塚自身が登場するエッセイ風短編漫画。「なぜ火の鳥を描くのか」といったテーマになっている。
二種類が存在し、一つはCOMに掲載された『休憩 INTERMISSION 火の鳥 またはなぜ門や柿の木の記憶が宇宙エネルギーの進化と関係あるか』と、もう一つは1978年マンガ少年11月号に再録された『休憩 INTERMISSION 火の鳥 というタイトルでなくともよいというわけ』である。
後者は前者の「再録」という形ではあるが、前者は6ページあるのに対し、後者は3ページに削られた上、文章が全て書き換えられている。なぜ後半3ページが削除されて、文章が全て書き換えられたかは不明であるが、削られた3ページには「火の鳥の正体(火の鳥とはどういった存在か)」など核心を突く内容が描かれていた。