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ガロア理論 Galois theory

私がガロア理論を知ったのは、サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」です。まず、ガロア個人のプロフィールの驚き、そして、その理論が現代数学のきっかけになっているということから非常に興味を持ちました。
そして、このホームページスタートのころからいろいろな本を読みましたが、どうも、いわれるようなすっきり感がありません。まだ、わかっていないんだと思います。
最近「数学のかんどころ14 ガロア理論」(木村俊一、共立出版、2013年6月10日)を見つけ、読み始め、なんとなくわかってきたような気がしています。ここでは、この本の概要を紹介します。(この本からの引用箇所は、" "で囲んで示しました。)

この本の目標

「数学のかんどころ14 ガロア理論」の冒頭に「本書の目標」が示されています。
これまでいろいろなガロア理論の本を読んできた私にとって、「なるほど感」抜群。ちょうどわたしのような「少しかじったけど消化不良状態」の者にはぴったりだな!と思わせる「本書の目標」です。
"本書の目標は、ガロアの理論を紹介することだ。具体的には、5次以上の方程式に解の公式がないことを、群論を使って説明することである。"

そして、この目標を聞いたとき読者が抱くであろう疑問が3つ掲げられています。
"(1) 2次方程式の解の公式は習ったことがあるが、3次、4次なら解の公式があるのか?"
この疑問は、これまで何冊も「ガロア理論」の本を読んだ私にとっては簡単。カルダノの公式とかフェラーリの公式です。

"(2) 解の公式がないとは、どういうことか?解が必ずしも存在するとは限らないということか?それとも解は必ずあるのに、それを計算することができない、というこのなのか?"

この疑問に対しては、下記の様に答えています。
"複素数の範囲でd次代数方程式にはd個の解が存在することが知られている。その解の値も、例えばニートン法を用いていくらでも正確に求めることができる。だから、「解の公式」とは何か、をはっきりさせないと意味がない。
ここでいう「解の公式」とは、方程式の係数と有理数だけを用いて、四則演算とベキ根だけで解をあらわす数式、のことだ。そのような縛りのもとで、5次以上の方程式の解をあらわす公式が作れないことを証明する。"

"(3) 方程式の解の公式と群がどう関係するのか?"
で、最後の疑問が、この本の"最初のテーマである。"と述べています。

群論と2次方程式

まず、群論について、"群論とは、対称性を数学的に厳密に扱うための道具"と簡潔に述べています。
さらに、"何か対称なものがあったとき、その対称性だけを抜き出したものが群"と補足しています。

定義1.3
多項式 F(α, β)がαとβの対称式であるとは、αとβを入れ替えても式が不変であること、すなわち等式
  F(α, β)=F(β, α)
が成り立つことであると定義する。

定理1.4
多項式 F(α, β)とG(α, β)がαとβの対称式ならば、
  F(α, β)とG(α, β)を四則演算で組合せて作った式F(α, β)◇G(α, β)も対称式になる。
ただし、◇は+、-、×、÷のどれかである。◇が÷であるときは、G(α, β)≠0と仮定する。

つまり、対称式を四則演算でいくら組み合わせても、対称式しか作れない、ということです。
例えば、α+2βは対称式ではないので、α+β、αβなどの対称式をどのように組わせても、α+2βをつくることはできないということです。

以上を確認して、"さて、これまでの考察を、2次方程式の解の公式作りに当てはめてみよう。"と続きます。
そして、"2次方程式 x2+Ax+B=0 の解をα、βとするとき、
  α=[AとBであらわされた数式]
という形の式が、解の公式だ。"
というわけです。

一方、私たちは「解と係数の関係」というのを知っています。これは、
因数定理:「整式 f(x) について,f(α)=0 が成り立つならば f(x) は x−α を因数にもつ. 」
を用いて、次のようにして「解と係数の関係」を導きます。

2次方程式 x2+Ax+B=0 の解がα、βであるということは、
f(x)=x2+Ax+Bについて、f(α)=f(β)=0 が成り立つということです。
ということは、f(x)はx−α、x-βを因数にもつということです。
よって、f(x)=C(x-α)(x-β)と書けます。(Cはその他の因数ですが、x2の係数と比較してC=1は、自明。)
よって、
  f(x)=x2-αx-βx+αβ
    =x2-(α+β)x+αβ
一方、f(x)=x2+Ax+Bだから、係数を比較して、
    A=-(α+β)
    B=αβ
これが2次方程式の解と係数の関係です。

つまり、α=[AとBであらわされた数式]という解の公式の右辺は、αとβの対称式です。
なのに、左辺αは、明らかに対称式ではありません。
「定理1.4」に矛盾します。

ということで、「四則演算だけ」という条件下では、2次方程式の解の公式は存在しないということになります。



開始:2014年8月11日
更新:2014年8月12日
最終更新:2014年8月21日